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更新日:
2009年1月16日

マザーレイク

暮らし。美味。特産品  ONLY SHIGA STYLE

滋賀県・美味探訪

「鮒ずし」

湖国に残る「寿し」の原点。
絶妙の旨味、日本の発酵食品の至宝。

好き嫌いは、確かにあるだろう。しかし最も湖国滋賀らしい美味といえば、やはりこの鮒ずしということになるのではないだろうか。一度味わえば決して忘れることのできない美味なる一品である。鮒ずしは、現在の寿しの源流である「馴れずし」の一種。馴れずしとは、魚を塩漬けにし、次にその魚の塩を抜き、白米に漬け込み、乳酸発酵させたもの。単なる保存食というだけでなく、人々の長い経験の積み重ねによって完成した、湖魚をより美味しく高度な味に加工する究極の食べ物と言っても過言ではない。

鮒ずしには、琵琶湖の固有種である「ニゴロブナ」が用いられる。豊かな水で育った近江米、日本海から塩街道を経て運ばれてきた塩、発酵に不可欠な温暖な気候など、滋賀には馴れずしを作る条件がすべてそろっていた。まさに琵琶湖、自然の恵みである。田植えの季節、魚が水田に押し寄せ、産卵し、生まれた稚魚は稲とともに成長する。田の水が落ちる頃、魚達は琵琶湖へ帰っていく。自然のリズムに合わせ、米を作り育て収穫し、鮒を獲り土用に飯に漬け、正月の馳走として食べる。てまひまかけて鮒ずしをつくるという食文化が湖国に残されたのは、この地に住まう人々が、琵琶湖に寄り添いともに生きてきた暮らしがあったためである。

魚を長期間保存し、おいしく食べる先人の知恵は、科学的に見ても非常に合理的だ。鮒ずしの桶の中では高塩分や飯の乳酸発酵による高酸度により、雑菌の繁殖が抑制されている。さらに重しをかけ、水を張ることで空気と遮断し脂質の酸化が防止され、魚の長期保存を可能にしている。味に関しても、発酵が進むにつれ鮒のタンパク質が分解され旨味へと変わり、酸の作用で身だけではなく骨までが柔らかくなっていく。さらに各種の発酵菌により生成される酸類、アルコール類、エステル類が複雑な風味を醸し出す。まさに「チーズのような」とたとえられる美味しさは、日本酒やワインとも抜群の相性。良質なタンパク質や豊富なカルシウム、整腸作用のある乳酸菌も摂取できることから、滋賀では昔から滋養強壮やお腹の薬代わりにも食べられてきた。

先人の知恵、製法を今も守り続け、伝統の味を今に伝える鮒ずし。その製法をはじめとする情報は、滋賀県の無形民俗文化財に指定されている。単なる保存食ではない。なぜ、しっかり塩漬けした魚をわざわざ保存性が低下する塩抜きにするのか。なぜ、魚より価値の高い主食の米を添加物として使用するのか。なぜ、行事や来客のもてなしとして賞味されるのか。もう、お分かりだろう。「美味しさ」こそが、鮒ずしが今も食べ続けられている「答え」なのである。

写真提供/喜多品老舗


大正5年 製造風景

塩づめ

塩漬け

塩漬け

飯漬け

鮒ずし蔵

巴盛り・飯漬鮒ずし

暮らしの中に「の恵み、の恵み」を。

寿しの源流である「馴れずし」は、稲作文化とともに東南アジアから日本に伝わったとされる。千年以上の歴史をさかのぼることができる食文化が、ここ滋賀の地に現在も息づいているのだ。しかしながら、近年、琵琶湖のニゴロブナの漁獲量は過去の10分の1以下にまで減少し、食材としての鮒が手に入りにくくなったことや、若者を中心とした食生活の変化により、各家庭の味として鮒ずしを漬ける家が減ってきているのも事実である。鮒ずしという滋賀を代表する貴重な食文化を未来へ引き継ぐためには、単に歴史や製法を記録にとどめるだけでなく、これからも人々が毎日の暮らしの中で琵琶湖との関わりを大切にしていくことが求められている。このため、滋賀県では水産試験場や(財)滋賀県水産振興協会などで鮒ずしの漬け方を紹介する講習会の開催などさまざまな取り組みを続けている。

「百匁百貫千日(ひゃくもんめひゃっかんせんにち)
豊富な栄養と風味のために、頑なに守られる伝統製法。

江戸時代から続く鮒ずしの老舗・高島市の「喜多品老舗」。鮒ずしの伝統的な製法を尋ねてみると、即座に「百匁百貫千日」という言葉が返ってきた。これは「百匁(約375グラム)の鮒」を「百貫(約375キログラム)の桶」に漬け、「千日(約3年)」の時間をかけてつくるという意味。材料は「ニゴロブナ」しかも三月から五月頃に獲れる、栄養豊富な卵を持った雌しか使わない。「ニゴロブナ」のウロコを取り、塩漬けにすること2年。それをていねいに水洗いしたあと天日干し、近江米「コシヒカリ」に漬け込むこと1年あまり。栄養的にも味覚的にも豊かに変化した、鮒ずしが出来上がる。鮒に付着している醗酵した飯粒は洗わず、そのまま薄く切っていただく。熱湯又は渋茶を注ぎ「お茶漬け」としていただけば、その味の良さもさることながら、身体の芯からぽかぽかと暖まっていく感覚に驚くことだろう。まさしく、発酵の知恵から生まれた栄養・滋養に満ちた健康食品だと実感できる。全国的にも、健康食として鮒ずしを求める方が年々増えているそうだ。寒い季節にこそ味わいたい、知恵と技に満ちた滋賀の食ブランドだ。

県民一人ひとりが力を合わせて。
ニゴロブナを守る、数々の取り組み。

昭和58年(1983年)から稚魚を放流。

鮒ずしの材料となる、琵琶湖固有種「ニゴロブナ」。1988年には198トンだった漁獲量は、1997年には18トンにまで減少した(滋賀農林水産統計年報)。琵琶湖の環境の変化、産卵地となるヨシ帯の減少、外来魚の増加による生態系の変化など、さまざまな要因が考えられるが、滋賀県では資源回復のための取り組みとして25年も前からニゴロブナの放流を行ってきた。その拠点が、(財)滋賀県水産振興協会である。現在、春には孵化仔魚を水田に放流し2cmに育った稚魚を、冬には12cm程度の稚魚を漁師さんの協力を得て琵琶湖に放流する。その放流数は、毎年1000万尾以上にのぼる。また、幼稚園児や小学校児童による放流など、次代を担う世代にも琵琶湖固有種保護の大切さを伝えている。

ニゴロブナを守る、琵琶湖の漁師。

「ニゴロブナ」を獲る現場でも、資源回復の変化が見られはじめている。「今年は、ちょっと上向いてきた」という実感を語るのは漁師歴50年以上の沖島の漁師・西居さん。昭和30年から40年頃は、一日に300〜400キログラムを水揚げしたこともあるという大ベテランだ。今日の自然環境の悪化と外来魚の影響を受ける中で、資源の回復にはもちろん放流なども必要だが、大切なのは漁師一人ひとりの「心がけ」なのだという。滋賀県では、2007年4月から全長22cm以下のニゴロブナの捕獲を原則として禁止している。これは、2011年までに資源量・250トンをめざすための取り組みだ。滋賀県の伝統食であり、食文化である鮒ずし。その伝統を守り続けるため、県民一体となって取り組んでいる。

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