滋賀県家畜保健衛生所広報誌 通信衛星No.70
70号目次
和牛肥育
ビタミンAは悩ましい
和牛の肥育において、飼料中のビタミンAを制限することは、いまや当たり前の技術となった感があります。ビタミンAを制限することを特に意識していなくても、肥育中の牛に青々とした乾牧草をふんだんにやり続ける人はいないでしょう。粗飼料にイナワラを使ってきた日本の牛肥育では、元々ビタミンAは不足しがちで、この日本的な肥育方法を突き詰めた結果がビタミンAを制限する肥育方法なのかもしれません。しかし、ビタミンAは、動物には欠くことのできない栄養素であり、その欠乏は深刻な事態を招くことにもなることも十分意識しておいて欲しいのです。
1.ビタミンA制御肥育
1990年代に、各地の研究機関でビタミンAと肉質の関係の試験研究が盛んに行われ、ビタミンAをコントロールすることによって肉の脂肪交雑が上昇することが証明されました。その方法は、研究者によって多少の違いはあるものの、図1の岡らの方法が代表的なものです。ここで注目してもらいたいのは、ビタミンAを制限するのは概ね24ヵ月齢までということです。本県の和牛の肥育期間は全国の中でも長い方で、去勢でも出荷月齢が30ヵ月を超えることが珍しくありませんが、24ヵ月齢を超えた牛に対してビタミンAを制限しても脂肪交雑の向上はあまり期待できません。
ビタミンAを制限することで脂肪交雑が上昇する理屈をちゃんと説明するのは難しのですが、簡単にいえば脂肪交雑が上昇するということは筋肉の中の脂肪を貯め込むことができる脂肪細胞という細胞が増えることで、ビタミンAにはまだ脂肪細胞になる前の未熟な細胞が脂肪細胞になるのを抑える働きがあるということです。

図1.黒毛和種のビタミンA給与法
(兵庫県立中央農業技術センター 岡章生;臨床獣医Vol.17,11,1999)
折れ線グラフ:血中ビタミンA濃度
*:飼料に添加するのであれば必要ない
**:飼料摂取量が低下した場合
導入時に200〜300万IUを経口投与。14ヶ月齢までは日量2万IU以上の飼料添加か、導入2ヶ月後に再度200〜300万IU投与。22〜25ヶ月齢までビタミンA給与を制限するが、飼料摂取量が低下すれば1日当たり3,000〜5,000IUを飼料添加。25ヶ月齢以降では2ヶ月間隔で50〜100万IUを経口あるいは筋注、または日量5,000〜8,000IUを飼料添加。以上は、兵庫県産黒毛和種去勢肥育牛へのビタミンA給与法として示されたものです。
2.ビタミンAの生理作用と欠乏症
ビタミンAは、様々な生理作用を持つため欠乏症もいろいろな形で現れます。
ビタミンAは、目の網膜にあるロドプシンという光を感じるために必要なタンパク質を作る材料となっているので、不足すると牛は目が見えなくなります。牛舎の中で妖しく緑色に光る瞳をした(瞳孔が散大している)牛はいませんか?
また、ビタミンAには、粘膜上皮組織の構造と機能の維持をする働きがあります。粘膜の表面(腸管や気管の内側)は、ヌルヌルとした粘液に覆われ守られていますが、ビタミンAが不足するとこのヌルヌルがなくなり細菌やウイルスなどの病原体が侵入し易くなります。他にも尿路で粘膜の細胞が壊れたものが尿石の核となることがあり、ビタミンAの不足は尿石症の誘因となっています。
最近の研究により、ビタミンAが直接免疫に関係することが明らかにされました。血液の流れに乗って全身を巡回しているTリンパ球という免疫の中心になって働く細胞が血中から粘膜表面へ移動するのに、ビタミンAが必要なことが判ったのです。
成長を促進するIGF(インスリン様成長因子)-1の分泌にもビタミンAは関係しています。このためビタミンAが不足すると、IGF-1の分泌が抑えられ牛の成長も抑えられます。
骨の成長にもビタミンAは関係しており不足すると骨はもろくなり骨折しやすくなります。
筋肉水腫(ズル)、浮腫、シコリ、SDL(鋸屑肝)も、ビタミンAの不足により引き起こされる可能性があります。
筋肉水腫・浮腫は、ビタミンA欠乏で採食量が低下したときタンパクの摂取量が低下し、血液のタンパク濃度が低下することにより血管から成分が漏れ出てしまうことで起こると説明されています。注1)
注1)
低栄養状態のうち特にエネルギーに比してタンパク質の摂取が不足した人でみられるクワシオルコル(貯蔵エネルギーである脂肪は減らず蓄積されているが、タンパク質は合成できないので低タンパク血症となり浮腫や腹水を伴う)と似ている。牛の中には細かく砕かれたエサも信じられないぐらい執念深くより分けて食べる牛がいます。エサの中の高タンパクな大豆粕やフスマを残す牛はズルになる危険性が高まるといわれています。
ビタミンAの素であるβカロテンは、体の中で生じたいろいろな障害を起こす過酸化物質を中和する抗酸化物質です。シコリ、SDLは抗酸化物質の不足で説明されるようです。
3.困ってしまう理由
前述のように、ビタミンAの不足は様々な障害を引き起こします。24ヵ月齢以降は脂肪交雑にあまり関係ないことだから、ビタミンAをガンガンやってくださいといいたいところですが、ビタミンAは肉色にも関係していて、仕上げの時期でもやりすぎると肉色が濃くなって価格に影響します。また、βカロテンには色があり、脂の色に影響があります。
ビタミンAのコントロールに関しても難しい問題がたくさんあります。導入元の飼養管理の違いによって素牛の導入時のビタミンAの血中レベルが違ってくること、ビタミンAを制限することで脂肪交雑の向上は期待できるのですが、一方でビタミンAを制限して発育を抑制すると、この点では脂肪交雑の向上を阻害すること、ビタミンAの制限に対する反応に個体差があること、気温や飼養密度などのストレスが加わるとビタミンAの要求量が増すこと、ビタミンAやその素のβカロテンは熱や光で壊れやすいことなど、結局、ビタミンA制御肥育をうまくやろうと思うと、決まったやり方どおりやれば良いわけではなく、牛の状態を見ながら微調整をする必要があります。
4.終わりに
今回、この記事を書こうと思ったきっかけは、最近、24ヵ月齢以上の死亡牛のBSE検査に搬入される和牛が多いなと感じたからです(冷静に、過去のデータと比べてみると、実はそうでもなかったのですが)。今年のような、天候不順な年は、いつもと同じ飼い方をしていても、牛に思わぬ負担がかかっているかもしれません。ビタミンAを制限している牛は、特に環境の変化の影響を受けやすいので、普段以上に牛をよく見て気をつけていただきたいと思います。
(谷浩)
おまけ
ビタミンA過剰症
ビタミンAには過剰症もあります。不思議なことに過剰症は欠乏症と症状が似ており、皮膚の異常、下痢、食欲不振、骨の発育異常などの症状がみられます。牛のハイエナ病と呼ばれるものは、ビタミンAの過剰による骨の発育異常で、後躯が寂しくハイエナの様な体型になることからこう呼ばれています。ビタミンA製剤を誤って過剰に投与して起こる人為的なものです。